コラム:パチンコ店経営を考えるポイント

現場の力

このコラムでは、思考停止型の発想でホール運営をしてはいけない、ということを何度かお話してきました。そしてその様な思考停止型発想は、実務に直接携わる者が陥りやすい傾向にある、ということもお話したと思います。

このようなことを言うと、現場の意見は聞いてはいけないと早合点してしまう人も出てくるかもしれませんが、決してその様な意味合いで言っているお話ではありません。

現場に携わる人間の経験に裏打ちされた感覚は、単純に外部の人間では計り知れないような能力を発揮する場合があります。人によっては、一種の職人芸と言っても過言ではないようなセンスを持ち合わせた人も出てくるのです。

ある店に、優秀な店長がいます。この店長が担当する店舗の業績はいつも好調です。特に変わった方針を打ち出しているわけではありませんし、外部からは何が違うのか一見わかりません。

しかしこの店長、絶妙な釘調整の感覚を持ち合わせているのです。いつ、どこをどう調整するか、そのタイミングや具合が的確に顧客心理を捕らえているようです。他店に比べこの店は、高い粗利益率を維持しているにもかかわらず、その賑わいは衰えません。

もちろんこの店長は、自分が持っているこのノウハウを明確に意識しているわけではありません。ほぼ経験によって培われた形にならない知識の積み重ねが、彼の「感覚」として宿り、無意識のうちに能力として発揮されるわけです。

ある店の主任は、営業中ほぼ同時に起こった複数のトラブルに対して、適切な指示で対処します。他の役職者であれば、混乱を招きかねない相次ぐトラブルであっても、彼の適切な対応は、それを見事に回避します。

ある店のホールスタッフの中で、特別顧客に人気のある女性スタッフがいます。取り立ててルックスが優れているとか、そういったことではありません。彼女には男女問わず多くのファンがいます。

もちろんこの主任も女性スタッフも、特別に何らかの訓練や研修を受けたわけではありません。しかしながら、彼らはその経験の中から培われた能力を、無意識のうちに発揮しているのです。

この様に現場で働く優秀な人材には、他者には容易にマネの出来ない優れた能力を持ち合わせた人がいます。

ところがこの様な能力は、当の本人達にしても、その理由を明確に説明することが出来ません。経験によって自然と培われた知識は、ほとんど感覚とでも呼ぶべきもので、実態が不確かなのです。

そのためこの様な優秀な人材の能力は、他者に伝えられることがありません。部下や組織にそのノウハウを残そうと思っても、本人すらそれが一体何なのかがわからないため、彼ら一代でそのノウハウは消滅してしまうのです。

つまり、優秀な人材が何らかの理由で退社などしてしまうことは、その会社にとって大きな打撃となるわけですね。彼らの存在がその店の業績に大きく作用しているわけですから。

ホールを経営する側としては、ぜひともこの能力を形式化して組織内部にノウハウとして定着させる必要があります。優秀な人材個人の中だけに内包されたノウハウではなく、これを組織で共有できるのであれば、それは現在のホール運営を大きく飛躍させることに繋がります。さらにこのノウハウがホール運営の仕組みとして機能すれば、個人の進退に左右されず、安定した業績を確保することが出来るわけです。

私にも以下の様な経験があります。オカルト話ではありませんので、最後まで聞いてください。

私がとある店で管理職として勤めていた頃、そのホールの動向に対して私の予想がことごとく当たるということがよくありました。もちろん当時は中間管理職でしたので、私の意見どおりに営業が決まるわけではありません。

しかし、私が反対したものを実行してもほぼ失敗し、私が賛成したものは成功すると言う繰り返しでした。しかも成功や失敗の程度や状態まで、ほぼ予想通りになります。

ところが別に私は、当時優れた洞察力と分析力を持ち合わせていたわけではありません。今後の動向を分析によって予測していたわけではないのです。

単なる「勘」です。

何となくそう感じる・・・・という程度のものが、なぜか非常に良く当たるのです。

ある時も、私はその店の業績が大きく悪化してしまう事態が来ることを、事前に感じたことがあります。それは会社の上層部の方針転換により、大きく営業方針が変更されて数日後のことでした。

その日私は、ホールの様子が普段とは違う事に気が付き、言い知れぬ不安感に襲われました。理由はわかりません。ただ何となく、ホールがいつもとは違う嫌な雰囲気に包まれているという感じがするのです。

しかしその日のデータを見ても、数字上は普段通りであり、特に変わった様子は見られません。

それでも心配になって部下に、お客様からのクレーム内容やホールで変わったところがないかを細かいところまで何度も確認を取ったのですが、

「特に変わったことはありませんよ。」

という報告しかありません。

上層部にも「このままでは業績が悪化します」と進言したものの、もちろん受け入れられませんでした。

「俺の勘です。」

としか言いようがないからです。

この1ヵ月後、この店舗の業績は大きく傾き出し、3ヵ月後には売上げが35%ダウンという事態になってしまいました・・・・

なぜ私の勘が、次から次へとよく当たったのか?

実はこのことは、勘でも神様のお告げでも何でもありませんでした。私の場合、その後のいくつかの経験と研究から、現在ではその理由がようやく明確となっています。

実は私は今までのホール営業の実務経験から、無意識のうちにお客様を複数の階層に分けて観察し、判断していたのです。そしてこの階層に別個のアプローチを行なうことで営業がどの様に変化するか、また各階層が一定の動きを示した際に、ホール側はどの様に対応すべきかということを、やはり無意識のうちに知識として持っていたのです。

現在私のこの勘なるものの理由は、かなり体系化されたノウハウとなっており、ホール運営に関する「仕組み」として、ご支援先ホールに提供できるまでになっています。

この様に、現場には現場の人間にしか知りえない形のない「知識」と言うものが存在します。(これを「暗黙知」と言います)そしてそれを他者にも伝達可能で共有可能な知識として形式化する(これを「形式知」と言います)ことで、組織内にそのノウハウを定着させることができ、今後のホール運営の飛躍に大きく貢献することが出来るのです。

あなたのお店でも、優秀な人材がいることでしょう。しかしそれを放ってけばそのまま形とならず、各個人の内だけで発揮される能力にしかなりません。

あなたのお店でも、彼らの優秀な能力、形のない能力を、他者にも伝達可能な形で形式化する努力をしてみてはいかがでしょうか。

2004年6月18日

ホール運営研究会
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